- 49 -特集Ⅰ：日本におけるパンチ＆ジュディ再考大阪空襲で自らの絵画作品も家業も焼き尽くされ、戦後、金之助は美術教師の職を得た。そのような状況で、戦後の荒廃の中で子どもたちに人形劇を届けるために、「実演されることを心から望んで」脚本集を出版した。実際、集中に収められた「サボちゃんの社会科見学」は、当時勤務していた讃良新制中学校演劇部に『コドモ人形座』をつくり、上演した記録が残っている。19 1959年、目を患い視力を失くしつつあるなか56歳で迎えた四条中学退職の日に、即興で人形劇を演じる姿が写真に残っている。[図４]脇に置かれた杖が胸を衝く。演目は「野崎村」、文楽の代表的演目の一つ「新版歌祭文〜野崎村の段」であった。奉公先のお嬢様が恋人に会いに来る口実に使った野崎詣の野崎観音は、四条中学校区にある。地元への敬意を込めて選んだ演目だろう。有名なお染・久松のくだりを、男女の人形を片手ずつにはめて演じているのだろうか。お染が懐妊を告げ、持参した刃を取り出し久松に迫る場面が浮かぶ。――パンチ＆ジュディでは、暴力沙汰寸前の「キッシー、キッシー」とキスを続ける濃厚なシーンに対しては、「センチメンタル」と形容されるのがならいである。洋の東西を問わず上演される男女の愁嘆場、写真では人形の細部は分からないながら、パンチ＆ジュディに通じている。日本のパンチ＆ジュディの特徴④手遣いの場合、日本特有の額縁の低い舞台にパンチ劇を合わせ、演者は膝まずいて上演した。その例に、藤田のこの写真は入れられるだろう。人形を嵌めた両腕を高々と掲げ、立って演じる英国のパンチ芝居よりも、日本の箱舞台の額縁は低い。日本に伝わるこの形態を、伊東史朗も採用していた。[図４]が明かすのは、即興の余興であったために利用した教壇とはいえ、成立した日本的な上演スタイルである。隠す幕もなく、退職記念であったがゆえに、この写真が残った。これこそ、久能龍太郎の「紙芝居」「パンチ臺」「模型舞台」を想起させ[図５]伊東史朗のパンチを彷彿とさせる。さらにここから、フジタが演じたであろうパンチ芝居を幻視できる。４．ロンドンで少年が観たパンチン・ジューディを上演した山根能文、そして水田外史山根能文（1918-2002）は、戦後まもない1948年東京で人形劇団テアトル・プッペを主宰し、ほぼすべてのプログラムで中心的役割を果たしてきた。都内の小・中・高校を精力的に巡回し、地方公演も含め、比較的大規模[図５] 「パンチ臺」久能龍太郎『紙芝居の作り方 』1933年
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