- 48 -い。ユニークな台本「パンチとジュディ」を巻末に掲載した人形劇児童劇脚本集を出版した1949年時点で、人形劇歴を25，6年と、藤田は「はしがき」で述べていた。1923，4年、20歳そこそこから人形劇と関り始めたことになる。その契機を示唆するのが、美術史家上田文が編んだ『藤田金之助――作品と生涯』16である。同居していた孫娘ならではの貴重な情報の数々から、藤田の人形劇との関りを以下に探っていく。1924年から29年まで、すなわち22歳から27歳の青年期を、日本画家「東京の小林古径に師事、住込みの書生として」藤田は過ごしていたのだ。まさに新興美術運動のなかで人形劇の世界が大きく新しく動き始め、伊藤熹朔らによる人形座が始動する時期の東京に、画学生として滞在していたことになる。故郷をあとにし家族と離れ画業を追究する20代の青年の、東京での新しい芸術体験のひとつとして、新しい人形劇があったことになる。金之助は14歳の1916年より19年にかけて、生地大阪の「庭山耕園画塾で日本画（四条派）を学び、1917年には京都市立美術工芸学校日本画科に入学」していた。東京での師匠小林古径は日本画の大家であり、紹介者があったことから、家族に上京を認められた。すでに画塾の塾友と結婚しており、妻は大阪に残り家業を手伝い、折にふれチッキで荷物を送り上京もし、金之助をサポートしたらしい。17古径は、金之助を受け入れる少し前に、前田青邨などと８カ月にわたりヨーロッパを旅し、西洋美術をじかに体験したばかりだったこともあって、書生の金之助にも、こだわらず自由な創作を認めたらしい。東京での日常生活は、「玄関番のほか子供の学校送迎などを引き受けていた。古径の長女の『お通さん』、次女の『お礼さん』との交流は、晩年まで続いた。」学齢期の令嬢二人を伴って、学校以外の娯楽を楽しむこともあったならば、その内の一つには、人形劇鑑賞もあったかもしれない。1927年には人形座伊藤熹朔の「パンチとジュディ」も観ていたかもしれない。あるいは、その話題だけでも聞き知っていたかもしれない。次男藤田晢也によると、金之助は生涯にわたり、伊藤熹朔の弟である千田是也を注視していたという。18時を経て、第二次大戦後の児童教育のための「俳優座こどもの劇場」についても、1948年の第１回公演時から着目したがゆえに、翌年に自作脚本集を出版する励みとしたかもしれない。脚本集「はしがき」に、「戦後の文化運動で最も目醒しい効果をあげたのは、演劇運動の普及」であると記した時、「俳優座こどもの劇場」も念頭にあったかもしれない。[図４]藤田金之助退職記念即興公演「野崎村」 ©上田文
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