- 46 -人形のパンチやジュディにつきものの誇張された特徴は、タイトル「鼻高ポンチ」にあるように、鼻に見受けられる。しかし、それは本来のパンチ人形の鷲鼻ではなく、むしろ天狗に近い日本風である。6パンチもジュディも犬も、グロテスクではなく柔和である。南江が辞職に至ったのは、小劇場運営に手こずる劇場の方針に不満があったようだ。「人形試演に際して、私以外に、それに専心すべき一人の舞台装置家も、一人の人形作家も、作曲家も特に指名されたわけではなかった。その時々に応じて歌劇団のそれぞれの専門家が、文字通り片手間仕事に廻されたに過ぎなかった」と恨みの言葉を残している。とはいえ、高瀬嘉男によると、村井武生（1904-46）が「当時南江二郎氏の演出していた宝塚小劇場の人形歌劇の人形製作を一手に引受けていた」7ので、「鼻高ポンチ」の人形も村井武生作であろう。同時期1932年に出版された村井武生『明日の手工藝』の扉絵は、平井房人（1903-60）によるパンチ＆ジュディの箱舞台である。[ 図３] 当時、平井は宝塚発行月刊誌『歌劇』の表紙やイラストをさかんに描いていた。出版のちょうど数カ月前にあたる頃、宝塚小劇場で村井武生が作った人形のパンチ劇を観た平井房人が、村井の著作にふさわしいと捧げた扉絵であったはずだ。劇団の記録を南江の言い分に照らし合わせると、3点において齟齬をきたす。①劇団側の記録では「鼻高ぼんち」だが、南江は「鼻高ポンチ」と呼んでいる。②「作曲又ハ編曲」に、森安勝がクレジットされている。③８月にも雪組生徒による「鼻高ぼんち」公演があった。8他の人形劇の演目については、2ヶ月続けて同演目、ただし月が替わると異なる組によって再演しているので、「鼻高ポンチ」も、８月雪組、９月は月組が公演したのだろう。10月、11月、12月については、小劇場での上演記録自体がない。南江の人形劇だけが、はずされたわけではなく、この間、運営自体が停滞し、ついに12月の南江退職に至ったのだろう。翌1933年の１月、２月、４月で小劇場の公演記録は途絶えており、また、人形歌劇については、南江が去ったあとは上演されていない、と判断できる。公演形態は、８月については9「毎日曜午後一時より／宝塚コドモの国／コドモ劇場公演／（雪組生徒出演）」とある。演目は、お伽歌劇、小品舞踏、童話劇のあと最後に、人形歌劇として「鼻高ぼんち」が上演された。９月は10「小劇場・コドモの国／月組公演／毎日曜・祭日・午後一時開演」で、演目は、小品舞踏、児童劇、お伽舞踏のあと、最後に人形歌劇として「鼻[図３]平井房人による扉絵 ©人形劇の図書館
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