'20 日本の人形劇

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- 44 -いない。パンチ師が他の人形劇もする、というのは例外である。２　興行収入をあげ実入りを増やすために、パンチ芝居以外にも手を染めた例としては、日没後に街灯の下で同じ箱舞台を利用して、影絵劇を見せた興行師たちが紹介されている。３残業して就業時間延長の昼夜興行、ただし演目は別、という就労形態だ。英国のパンチ師が現在、パーティーや娯楽施設に余興として呼ばれた場合、30分未満で終了するパンチ芝居だけではもの足りない。充実をはかるためであっても、あくまでも見世物路線をとる。たとえば手品などを披露し、観客となじんで盛り上げ、最後にパンチを上演するのが一般的である。パンチ＆ジュディ・フェローシップ会長ジョン・スタイルズに、「南京玉すだれ」習得キットを所望されて調達したことがあった。すでに手品の名手であったジョン・スタイルズが、さらに加えるべき才芸として、どこかで見知った「南京玉すだれ」に目を付けたとは、さすがである。ひるがえって日本では、パンチ芝居だけをするパンチ師はなかった。パンチを支える背景がなかったからだ。伊東史朗（1941-2018）は、ひとみ座団員として操演・演出に活躍していた。パンチ劇をする時は、「白雪姫」や「花咲かじいさん」などを併演していた。英国のパンチ師の在り方とは異なっていたのだ。③スワッズルによる人工的なパンチ独自の声は再現されてこなかったおそらく発端の伊藤熹朔からして、パンチの声を聞いたことはなかっただろう。パンチの声は、日本では不問にふされてきた。日本で翻訳された台本にト書きとして「パンチの声はスワッズルで」、などとは記されていない。原本にも、自明ゆえにか特記はない。パンチ＆ジュディにおける音の面、聴覚での日本への伝承はなかった。パンチ師と、とりあえず訳語をあてたパンチマンには位階がある。スワッズルが使えればパンチ・プロフェッサーであり、使えなければプロフェッサーは名乗れない。スワッズル文化のもとにあれば、たとえば伊東史朗は、シローおじさんではなくプロフェッサー・シローに、きっとなっていただろう。才能はもちろんだが、プロとして演じるための努力を惜しむはずがない人形劇人だったからだ。日本のパンチにスワッズルがなかったことをマイナス要素としてあげつらっているわけではない。むしろ、見たことも聞いたこともないままに、これを始めた先人の勢いにうたれる。時々に、パンチに魅了された人形劇人が描いた系譜・試行錯誤の道のりが、日本におけるパンチ＆ジュディをつくってきた。④日本特有の額縁の低い舞台で、演者は膝まずいて上演した、については、３．藤田金之助の資料に即して後述したい。