- 43 -特集Ⅰ：日本におけるパンチ＆ジュディ再考１．日本におけるパンチ＆ジュディの独自性英国のパンチ芝居と比較し考察すると、日本のパンチ＆ジュディは以下の4点を特徴として挙げることができる。①複数の演者による演劇的人形劇として始まった②パンチ師ではなく、人形劇人がパンチも演じた③スワッズルによる人工的なパンチ独自の声は再現されてこなかった④手遣いの場合、日本特有の額縁の低い舞台にパンチ劇を合わせ、 演者は膝まずいて上演したこのような特徴を、まず確認しておきたい。①複数の演者による演劇的人形劇として始まった現在辿れる限りの、そもそもの日本での始まり、人形座「パンチとジュデイ」の上演チラシ（1927年と推定）[図１]には、「人形遣ひ」として、「伊藤熹朔、伊藤智子、木村太郎、小野忠重」の４名が並んでいた。パンチ芝居を演劇的にとらえ、4人で演じたからだろう。英国では例外的に二人で演じた例もあったとはいえ、パンチ師一人が、利き手にパンチ人形、もう一方の手でジュディをはじめ相方を次々替え上演してきた。複数の人形遣いが上演するパンチ劇となると、自分ではなく相方が操る人形を打擲したのか。となると、打擲する方もされる方も、やりにくかったと拝察する。チラシから、熹朔はパンチ＆ジュディをイタリアのものと誤解しており、英国のを観ていないのは明らかだ。それだけに英国のパンチ劇にならう制約も感じていなかっただろう。また当時は、文楽の様式である浄瑠璃と人形遣いの分業が自明であったのだ。人形座第１回公演『誰が一番馬鹿か』（1926）では、10名の「人形遣い」、延べ16名の「台詞受持」がクレジットされていた。１「パンチとジュディ」では「人形遣ひ」である伊藤智子と木村太郎は、『誰が一番馬鹿か』では「台詞受持」であった。「パンチとジュディ」には「台詞受持」クレジットがないだけに、この4名のなかでの配役が謎として残る。【謎１】②パンチ師ではなく、人形劇人がパンチも演じたはじまりの伊藤熹朔が端的な例であるが、日本では、人形劇を上演する人形劇人がパンチ＆ジュディも上演した。対して英国では、パンチ＆ジュディは基本的に、パンチ師が演じる見世物であって、演劇としての人形劇とは捉えられて [図１]人形座「パンチとジュデイ」の上演チラシ ©人形劇の図書館
元のページ ../index.html#45